第①話 出会い
~重力は、人間が恋に落ちるのには関係ない。~
アルバート・アインシュタイン
バイトの男 『あのぉ・・・急に変なこと聞きますけど、いいですか?』
私 『えっ?あっ、うん?なぁに?』
バイトの男 『康子さんって・・・彼氏とか・・・いますよね?』
私 『ええっ!?どうしてですかっ!?』
バイトの男 『ははは、だって、康子さんすっげえ綺麗だし、もてそうだから彼氏くらいいるんだろうなぁ、って思って聞いたんすよ。俺は3年も同棲してる彼女いるから康子さんには手は出せないっすけど、もし彼女いなかったらほっとかないっすよ。マジで!』
私 『もぉ~、いきなり変なこと聞かないでよぉ。彼氏は、いないわよ、い・な・い。ほらぁ、ちゃんと洗いもの終わらせないと、また大将に怒られちゃうでしょぉ。』
私は視線を下に落としたまま、洗って間もない泡だらけのお皿を水ですすぎ、そのお皿を、また泡ぶくにして洗いながら小声で答えた。カウンターの向こうで熱心に競馬新聞を読んでいる大将の霧山さんに聞こえないように。
このバイトの男の名前は滝野康平(たきのこうへい)19歳。私の後に入ってきた、たったひとりの後輩アルバイトだ。とはいっても、この料理屋にアルバイトは私とこの滝野君の2人だけ。
私、康子(27歳)と、このデリカシーのない男、滝野君がアルバイトとして働かせてもらっている料理屋『仕出し・割烹・霧家(きりや)』は、ちょっとした高級和食を振舞う店で、週末以外はかなり暇なお店。それでも客単価が高いせいか、皿洗いしかできないようなアルバイト2人を時給1000円で雇っても楽にやっていけているみたいだ。もちろん料理を作るのは私じゃない。滝野君でもない。この店の大将、ギャンブル好きの霧山さんだ。私と滝野君はちょっとした盛り付けと皿洗いと注文を聞きに行く専門だ。
大将 『それにしても暇だなぁ。不況、不況っていうけど、こうも暇になるもんかね?』
今日は金曜日。壁にかかった古い時計の針は20時15分をさしていた。最後に帰った客は18時30分くらいだから、かれこれ2時間近くお客さんが入っていない。
滝野 『今日は雨降ってるからじゃないっすかぁ?大将。テレビのニュースで朝まで雨はやまないって言ってましたし。みんなそれで今日は外に出ないんじゃないっすかねぇ?』
大将 『う~ん。明日の朝まで雨かぁ。重馬場かやや重だなぁこりゃ。③はやめっかなぁ。』
店が暇な理由を天気のせいにして、若いなりに珍しくあの滝野君がせっかく頑張った言葉をかけたのに・・・。大将は競馬新聞から目を離さないでブツブツ一人で話している。
大将の霧山さんは料理の腕は確かなんだけど、根っからのギャンブル好き。ギャンブル狂と言った方が正しいかも。パチンコ・競馬・麻雀。賭け事ならなんでもやるみたいで、女の私に話してくる話題もギャンブルの話ばかり。滝野君もギャンブルはしないみたいで、いつも大将の勝った、負けた、当たった、外れたのわけのわからない話に、都合のいい返事を返しては、私の顔を見て苦笑いをしている。
ザザー・・・ザー・・・ザザー・・・ザー・・・カタカタ・・・
大将 『ちっ。こりゃ今日はあかんなぁ。』
雨と風がかなり強くなってきたのか、大将が競馬新聞から目を離して窓の方に一瞬目をやって、そうつぶやくと、舌打ちしてすぐにまた競馬新聞に目を落とした。
週末で暇だっていうのに今日も大将はお店よりも明日の競馬の方が気になって仕方ないのだろう。まぁ、私はそのほうがピリピリした雰囲気で仕事しなくて済むから楽でいいけど。と、ちょっと鼻歌交じりで洗い立てのお皿の片づけをしていたら、
大将 『ご機嫌だねぇ、康子さん。そうだ、康子さん。康子さんの好きな数字は何番?①から⑯で。』
と、新聞をたたんでカウンターの上に置き、珍しく私の目を見て聞いてきた。
またわけのわからないことを・・・どうせ明日の競馬の馬の番号かなんかだろう。どんぶり勘定な大将のことだから今日の雨で明日買おうとしてた馬が当たりそうにないから当てずっぽで私に聞いてきたんだろうと思った。どうせ何番でも当たらないときは当たらないんだから。ギャンブルなんて。
私 『そうですねぇ、私の好きな数字は③かな。』
と、考える素振りもなくすぐに大将の目を見て答えた。
一瞬店の空気が止まる。
別に嫌味で言ったわけじゃない。大将の③はやめっかなぁ、という声が聞こえてなかったわけじゃないが、本当に好きな数字は③だったのだ。
横では滝野君がちょっとそれはマヅイんじゃないっすかぁ的な顔で私と大将の顔を交互に見ながら洗いたての綺麗なお皿を手に取って遊んでいた。大将はカウンターの上の競馬新聞を手に取り、21時を回った時計を見て、また競馬新聞に目を落としながら私と滝野君にこういった。
大将 『よし!今日はちょっと早いけどもう閉めやな。片付け終わったら2人とも帰っていいぞぉ。どうせ雨だし、客は来んわい。』
滝野 『えっ!?大将!?もう閉めっすか!?いつもは23時まではいくら暇でも開けてるじゃないっすか。』
滝野君が私の方を見ながらさっき言った③番がいけないんだ!みたいな顔をしている。私はそんなこと知ったこっちゃないわよ。もぉ。
大将 『いやいや、今日はもう本当に閉めよう。暇なのに開けておいてもしょうがない。康平も康子さんも早く帰って明日の土曜日頑張ってくれよ!』
滝野 『は、はい。わかりました。じゃあ俺は着替えてきますね大将。お疲れ様っす!』
どうやら大将がさっきの私の③番を怒ってはないのを確認してほっとしたのか、滝野君はすぐにお疲れ様と私と大将に言って、裏に割烹着を着替えに行った。
大将 『康子さん。』
私 『はっ、は、はい?』
私も大将にお疲れ様を言おうとしてエプロンを外しながらタイミングを見計らっていたから、急に大将に話かけられてびっくりして、どもってしまった。
大将 『明日は康子さんの言う③番に賭けてみるよ。どうせ何を予想しても一緒やからなぁ。はっはっはっ。』
何を言われるのかと思って身構えていたらそんなことか・・・
私 『もぉ~大将、それで外れても責任とれませんよぉ?私ギャンブル運とか全然ないんですから。』
大将 『はっはっはっ!康子さんにないのはギャンブル運じゃなくて、男運じゃないんか?はっはっはっ!お疲れさん!戸締りよろしく!』
私 『お疲れ様です・・・。』
大将 『はっはっはっ!』
聞かれていた・・・。さっきの仕返しか・・・。そう言って大将はお店の二階にある自分の部屋にスタスタと上がっていった。
ふぅ~。やられた。
滝野 『康子さん、お疲れっす!俺、早くあがれたんで今から彼女と飯食いに行ってきますんでお先っす!』
滝野君が裏で着替え終わって、私に走りながらそう言ってダッシュで店を出たので、私は、もう一回ため息をついて、エプロンを外した。
私 『大将ぉ~!!お疲れ様でしたー!!戸締りして帰りますねぇ~!!』
二階にいる大将に聞こえるくらいの声で叫んだのだが、雨の音も強くて聞こえなかったのか、大将からの返事はなかった。もう一回だけお疲れ様と言って返事がなかったらこのまま戸締りして帰ろう。そう思って、もう一回雨の音に負けないように二階の大将に声をかけようとしたとき、急に背中でガラガラっとお店のドアが開く音がして、雨の匂いとともに、私の耳に聞こえる雨音が大きくなった。
びしょ濡れの男 『もう閉店ですか?』
そこにはスーツの肩を、雨でびしょびしょに濡らした30歳前半の男が傘も持たずに立っていた。
これが彼との初めての出会い。ここから私と、私のJYOJIの物語は始まっていったのだった。
そう、強い風が吹いて、強い雨が降る日。あなたは雨の匂いとともにやってきて、私に出会った。びしょびしょに濡れて、どうして傘を持ってなかったんだろう?その時はそんなことも考えられないほど、私はあなたの瞳(め)だけを、ずっと見つめて、出会ったその瞬間から目が離せなくなるほど、あなたに恋をしてしまったのだ。 第②話へ続く・・・
※第①話を読んでくださった方へ。 まずは、私のヘンテコリンな小説を読んでくださってありがとうございます。できるだけ、実体験からなるノンフィクションの小説を書いていこうと思っていますが、プライバシーの問題もありますので、多少、設定や名前を変えたりしていますが、ほとんどがノンフィクションです。第二話も近々更新します。感想や、ご意見、質問がありましたら、コメントのところに書いてくだされば幸いです。 康子。読んでくれた人、本当に ('-'*)アリガトウゴザイマス♪
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